Across Bioでは、自然界から有用な微生物や酵素を効率的に得るために、探索手法の開発を行っています。
微生物は自然界の様々な所に存在しますが、均一に存在するのではなくそれぞれの環境に適した微生物が偏って存在しています。この偏りを利用すれば、通常の環境では希少な微生物を効率的に取得することができます。
例えば、植物は、種類によって、また根、茎、葉、花、実などの部位によって特殊な化合物を産出することが知られており、特殊な環境を作り出します。フェノール化合物を多く生産する植物からはフェノール化合物を分解したり修飾したりする酵素を持った微生物が、シアン化化合物を多く生産する植物からはシアン化合物に関連する酵素を持った微生物を取得できる可能性が高くなります。
花や実などの糖分が高い部位からは、糖の修飾または変換能力を持った微生物が多く取得されると予想されます。
実際に花から酸性嫌気条件で微生物を探索した結果、糖からエタノールや有機酸を生産する酵母、キノコが取得されました。
想定する環境が自然界にない場合は人工的に環境を作り、そこに様々な環境の土壌などを加え放置すると、環境に適した微生物が優勢となり、選択的に望んだ微生物を取得することができます。一般的には、人工的な培地を使い特殊環境を作りますが、弊社では堆肥を利用した特殊環境を作り有用微生物の取得を目指しています。堆肥を利用した探索方法は、単独では生育できない微生物でも生育が可能となる可能性があり、これまで取得されにくかった微生物を取得する方法として期待しています。
フェノール化合物を多く含むヒノキの葉などを堆肥に多く混ぜて発酵させると、様々なフェノール化合物を修飾・分解する能力を持った微生物が取得されました。
Across bioでは、微生物や酵素を用いた医薬品や食品の原料製造方法の開発を行っています。ここでは、認知症や記憶に作用するフェルラ酸やカフェ酸の微生物を用いた製造法をご紹介します。
多くの場合、自然界から取得した微生物のままの形質では製造プロセスには適していません。そのため、私たちは微生物に突然変異を誘導する方法などで微生物の形質を改良し製造プロセスに使用します。また、それぞれの微生物に適した培地条件や培養方法などを構築することにより、微生物の持つ力を最大限に引き出せるよう工夫しています。
自然界に存在する微生物は、目的の酵素や物質を生産する能力を持っていても産業で利用するためには不十分です。そのため、私たちは微生物を目的の性質に改良するために、変異導入剤や紫外線などを用いて微生物に変異を導入し、その中から目的の性質になった個体をscreeningしています。
私たちは微生物を効率よく改良する上で、変異の導入方法と目的の性質の微生物の選択方法の2つを特に重視しています。そして、目的の微生物個体を得る確立を独自の方法により算出し、一定の確率以上の育種方法を行うことにより効率的な育種を行っています。
微生物の種類や付与させたい形質によって変異の導入方法を変えています。
なぜなら、付与させたい形質を得るために遺伝子の変動が多いほうが好ましい場合と少ないほうが好ましい場合とでは、効率の良い変異導入の方法が異なるためです。私たちAcrossBioでは、変異導入剤の種類、変異導入剤処理の時間や条件、変異を導入する微生物の状態などを変えることにより目的の性質を持った微生物を得る確立を高めています。
微生物にどのような形質を導入するかによって、製造プロセスは変わってきます。しかし、製造プロセスは設備上の問題などにより大きな変更をすることはできません。そのため、微生物にどのような形質を導入するかという育種計画は、製造する設備などに合わせて計画することが重要と考えています。
一般的には、微生物の育種は製造する物の生合成系が重視されますが、産業上で微生物を利用するためには設備と微生物の性質が合っているかということが重要となってきます。生合成系のみを改良した場合、実験室では改良されていても生産現場では改善されないことが起きる事があります。そのため、私たちは育種計画を立てる時、想定される設備での培養上の問題点を回避できる形質の導入を最優先に行っています。
優良個体を効率よく選別することは、短期間で育種をするためには大変重要は要因です。
付与させたい形質とある薬剤への感受性が相関がある場合、薬剤に対する耐性菌を取得する方法などは大変有効です。しかし、効率よく且つ継続的に育種するためには、選択圧がない条件でも効率的な選別方法が必要となってきます。この場合、ハイスループットにより多検体を短時間に評価する方法が有効と考えています。そのため私たちは、多検体の培養方法や分析時間の短縮化などの開発を行っています。
微生物の育種により性質は改良されても、実際の培養でその能力が発揮できなければ育種の意味はありません。そこで重要となってくるのが、育種した微生物に適した培養条件を確立することです。
育種された微生物で培養状態がどのように変化したかを把握することにより、培養条件を改良する必要があるか検討する必要があります。この場合、目的生産物の生産量はもとより、培地成分の増減、菌体量、pH、排ガス成分などの分析が必要です。さらに培養液の色やにおいといった主観的な要素も重要となる場合があります。これらの微生物の”声”を聞くことにより培養状態を把握しています。
各培養ステージでの培地成分の設定は、微生物の培養において大変重要です。基本条件での培養状態の把握から最適な培地組成を構築していきます。また、培地組成は生産物の精製条件とも深い関係があるため、想定される精製条件を考慮した培地組成の構築をしています。
基本的に培地組成は、炭素源、窒素源、リン酸、ミネラル、ビタミンなどの配合によって決まりますが、培地の殺菌条件や各成分の添加時期なども検討しています。
育種した微生物の能力を最大限に活かせる否かは、微生物に合った培養条件を確立できるかで決まるといっても過言ではないと考えています。しかし、実験室での培養に比べ生産現場の設備では限られた条件でしか培養できないのが現状です。実験室と同じ条件にするためには設備投資が多く現実的でない場合が多いからです。
限られた条件の中で微生物の能力を最大限に活かすため、微生物の育種から生産現場までの一貫した育種方針を行っています。